顎口腔領域のスポーツ外傷には、歯の破損や脱臼,口唇や口腔粘膜等軟組織の損傷、顎関節の脱臼、顎骨骨折などがあります。
ボクシングやテコンドー、ラグビー、キックボクシングなどの顔面への衝撃が多いスポーツでのみ起こるものと想像されがちですが、これらのスポーツはマウスガード装着が義務化されているために、ある程度の衝撃であればマウスガードによって吸収されるために歯は守られます。マウスガード装着していないスポーツにおける試合時、練習中だけでなく、日頃の運動でも転倒などで顔面を地面に強打したり、相手のアスリートの骨など固い物に歯があたってしまうと破折する可能性があるのです。
スポーツ時の衝撃などで歯の根っこが歯肉から抜け落ちた状態です。歯牙脱臼(しがだっきゅう)とも言い、抜け落ちた状態や抜けて放置された時間が長くなると歯を再生出来ない場合もあります。脱臼には不完全脱臼(転位)と言って、歯が根っこ側に入り込んだ状態や、浮いたように飛び出た状態と、歯が抜け落ちた完全脱臼があります。状態によって治療の緊急性や治療方法が異なります。また脱臼の場合は歯牙破折に比べて、多く出血します。
裂傷とは、唇や舌、頬の内側などの粘膜を損傷することです。他人の骨など固い部分や地面、防具や体育器具などの固い物と接触した際に、柔らかい唇や舌、頬粘膜(きょうねんまく)を内側の歯で傷つけたり、切ったりすることが多く、損傷の範囲によって治療法が変わります。切ると出血しますが、口腔内は水分が多く、よく動かすためになかなか出血が止まらないことがあります。口腔内はご自身では見えにくく、出血が止まらないことで精神的不安へとつながってしまうことも考えられます。
上顎骨(上あご)骨折や下顎骨(下あご)骨折のほかに頬骨骨折、頬骨弓骨折などがあり、骨折した状態によってはすぐに救急車で口腔外科のある病院で手術しなければいけない場合があります。骨は内部の組織のため、ヒビがはいったのか、折れてしまっているのかはレントゲンなどの医療機器で診断しなければわからず、手術したとしても完治するまでには長い時間を要します。その間も栄養状態を維持するために食事を摂らなければならないため、身体的なダメージと同時に精神的ダメージも受けます。
写真提供:日本大学歯学部付属歯科病院 スポーツ歯科科長・准教授 月村直樹 先生
マウスガードはスポーツ用品量販店や、最近ではネットショッピングなどでも広く販売されています。しかしこれらの市販品は、既製のものでご自身の歯やお口に合わせて作られているわけではありません。既製品の場合は、歯とマウスガードの間に隙間があったり、正しい咬み合せが出来ないこともあり、そうした状態で使用するとしっかりと衝撃を吸収出来ないだけでなく、咬み合せが悪いと十分に力を発揮出来ない場合もあります。
競技種目にもよりますが、スポーツ協会等が定める規定やルールによってマウスガード着用を義務化しているスポーツがあります。また完全義務化まではいかないまでも、条件によっては義務化されている場合もあります。